大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第二小法廷 昭和26年(オ)333号 判決 1954年2月05日

主文

原判決を破棄する。

本件を東京高等裁判所へ差戻す。

理由

上告理由第三点及び第五点について

原審は、被上告人銀行は昭和一九年四月七日株式会社三菱銀行より本件土地所有権の譲渡を受けるとともに同銀行の上告人山崎直に対する賃貸人の地位を承継したが、その後昭和二三年一二月一八日同上告人に対し閉鎖機関令一三条に基き本件土地賃貸借の解約の申入をしたから、これにより右賃貸借は民法六一七条に定める一年の期間の経過とともに終了したものとして被上告人の上告人等に対する本訴請求の一部(原判決主文参照)を認容したのである。しかし昭和二二年政令一一五号二条によれば、被上告人銀行のいわゆる旧勘定に属する国内資産(国又は地方公共団体に対する金銭債権で大蔵大臣の指定するものを除く)は、大蔵大臣の指定する時、すなわち昭和二二年六月三〇日大蔵省告示一三三号により指定された昭和二二年六月三〇日午前零時において、株式会社東京銀行に移転し、被上告人銀行を委託者及び受益者とし、右東京銀行を受託者とする信託財産となつたものであることが明である(右政令二条二項及び三項によれば右の信託財産の信託条件等に関しては遅滞なく協議を行い、大蔵大臣の指定する日までにその認可を申請すべく、その認可を受けなければ右の協議は効力を生じないとされるが、この故に信託財産たる効果も生じないものと解することはできない)から、被上告人銀行はその旧勘定に属する国内資産については爾後その管理処分権を失い、右資産を他に賃貸している場合にもその賃貸人としての権利を行使するに由ないものといわなければならない。そして本件土地が被上告人銀行の旧勘定に属することは原判決の判示自体から明瞭であるから、被上告人銀行は他に特段の事情のない限り右土地の賃借人たる上告人直に対し、前記指定時たる昭和二二年六月三〇日午前零時の後においてはその賃貸借につき解約の申入をする権能を失つたものと認むべきである。しかるに原審は他に何等特段の事情を示すことなく、右指定時の後たる昭和二三年一二月一八日被上告人銀行より同上告人に対してした本件土地賃貸借の解約申入を有効と解し、これに基き被上告人銀行の上告人等に対する前掲本訴請求の一部を認容したのであつて、右は前記政令二条の趣旨を誤解したかまたは審理不尽の違法あるものであつて破棄を免れない。

よつて爾余の論旨に対する説明を省略し民訴四〇七条に従い全裁判官一致の意見で主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 霜山精一 裁判官 栗山茂 裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 谷村唯一郎)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例